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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第12章      

「じゃあ、ストレッチ終わったら、見に行く……」

「え? でも……」

 クリスだって陸トレ筋トレに励み、ヘトヘトの筈なのに。

 心配を掛けている事が心苦しく、細い眉をハの字にしたヴィヴィだったが、

 兄の見学理由は、想像していたものとは異なっていた。

「振付見るの、好き……」

「え?」

「新たに何かが、形作られていく過程……時間……。好き……」

 ぽつりぽつりと呟くクリスは、いつも通りの無表情だったけれど。

 妹に似た大きな瞳は、どこか夢見るようにトロンとしていて。

「………………っ」

(わ……、我が兄ながら、可愛いなぁ~~♡♡♡)

 思い掛けないクリスの様子に赤面しつつ、めい一杯背伸びをしたヴィヴィ。

 金色の頭をナデナデすれば、21歳の健全な男子は その手を払い除ける事は無かったが、

 やはり微妙な表情を浮かべていた。

「じゃあ、後で……」

「うん。じゃあ先に始めてるね」

 1時間と許された時間は限られる為、足早に隣のリンクへ移動し。

 リンクサイドにチラホラ残っていたホッケーチームに軽く手を挙げると、早々に持ってきた音源をセットする。

 客席も少なく、がらんとした簡素なリンク。

 そこに響き始めた軽快な洋楽に、ノリの良い男達からは口笛が寄越されていた。



 2023-2024シーズン

 振付師・宮田に依頼したのは、

 映画「キャバレー」より “Mein Herr――あたしの男”



 あの曲は、己の愛した男に対する別れの曲で。

 しかも、少し後ろ髪を引かれる想いも滲ませつつ、新たな一歩を踏み出そうと あがいている女の曲。

 一見、今の自分に相応しい曲にも思えるが。

 このプロを「20歳の誕生日目前、匠海と離れた直後に滑れたか?」と尋ねられれば、

 答えは「NO」だった。


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