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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第13章
『陰に隠れて 私を苦しめ
私は丸裸で お前の術中に落ちる』
左脚での5連続ディフィカルト・ターンを踏み分けるも、
乳酸が溜まり「限界近し」と警鐘を鳴らす、重い両脚。
ティンパニの激しい打音。
そして、熱狂も露わに高らかに斉唱される混声合唱。
『運命は健やかさも 力強さも奪い
私を渇望と失望の虜にする』
金の細鎖を巻き付けた頭を両掌で抱え、右左右と大きく もがき揺れたヴィヴィ。
邪念を断ち切るかの様に両腕を振り上げ、もいだ頭を遠くへ放る。
ウィンドミルとツイズルを挟み、
今度は右脚での5連続ディフィカルトを踏み分け。
ラスト、
ウィンドミル・スピンで締め括ったヴィヴィは、険しく顔を顰めながら必死に氷を蹴る。
『今こそ時をおかず 弦をかき鳴らせ!
運命は強者をも 打倒するのだから』
最期に向けて、盛り上がりも加速するオーケストラ。
“運命は強者をも 打倒するのだから”
そう、なのかも知れない。
いくら死に物狂いで足掻こうが、
運命の女神からしたら自分など
まことに “取るに足らぬ人間”
背を大きくしならせたイナバウアーから、フリーレッグの足首を掴んだキャッチフット・スパイラル。
背中で両腕を組み、200度まで開脚したアラベスク・スパイラルを滑らかに熟し。
そうして踏み切ったのは、ジャッジ側に身体を向け、
両腕を進行方向とは逆に めい一杯伸ばした、横向きに飛ぶ前衛的なバレエジャンプ。
『皆の者 我と共に嘆こう――!』
ファルセットで絶唱される、最後の歌詞。
バタフライから、左軸足のバトンキャメル → シットスピン。
そして、右に軸足を替えてのシットスピン → I字スピン。
小刻みなトランペットとティンパニの音色。
重厚に響き渡る混声と、弦の厚み。
最高潮へと達するオケの中、
酸欠気味の頭の中では、葛藤が続いていた。