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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第13章      

 兄妹の視線が絡み合ったのは、ほんの一瞬。

 すっと視線を落としたヴィヴィは、大きな障害物を回避するかの如く、その横を迂回し。

 また大きなスーツケースをゴロゴロ引きながら、早稲田通りを目指す。

 夜でもワル目立ちする金髪を隠す様に、頭から被っていたパーカーのフード。

 その下 陰になった小さな顔には、特にこれといった表情は浮かんでいなかった。



 約4週間、日本の地に “この自分” が滞在しているのだ。

 妹に常軌を逸した執着を見せるあの兄が、ヴィヴィにコンタクトを取って来るであろう事は想像に難くなかった。

 それも、一切の通信手段を絶たれた今、

 面と向かって直接会いに来るであろう事も――

「………………」



『……私と、別れて下さい……。おねがい……お願いします』



 あんな一方的な別れの切り出し方。

 匠海がすんなりと了承するとは思えなかった。

 だが、兄はまだ解かっていないのだ。

 どれだけ私が追い詰められて頭を垂れ、離別を懇願したのかを。



「ヴィクトリア」

 背後から掛けられた声にも、振り向かねばならぬ筋合いは無い。

 ようやく通りに出たヴィヴィは、金曜の夜の街を行き交う車道に向かい、躊躇無く片手を挙げた。

 しかし人々が帰宅の途に就く時刻、そんなに都合良くタクシーが捕まる筈も無い。

 「賃走」のそれを1台見送った時になって、初めて表情となって現れた焦りの色。

 早く、一刻も早く、この場を離れたい。

 背中に絡み付く、兄の視線。

 その粘度は、以前のそれよりも更に酷く感じて。

 通過する車が撒き散らす眩い光にも急き立てられる様に、タクシーの姿を求めて視線を凝らせば。

 挙げていたその手は、後ろから掴み下ろされた。

「一緒に、来て欲しい」

 喧騒に負けぬスレスレの音量で、背後から囁き掛けてくる男。

「離してっ」

 咄嗟に振り解こうとするも、掴み上げる力は思った以上に強かった。

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