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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第13章
「一緒に、来てくれるね?」
「………………」
掴まれた手首はそのままに、背を向けて立ち尽くす妹。
「ヴィクトリア……?」
その名を呼ぶ声は、気遣わしげな声音として鼓膜を震わすのに。
『大人しく着いて来た方が、身の為だと思うが――?』
先程の脅迫めいた忠告の意味を、やっと理解したヴィヴィにとって、
今の兄の言葉と行動は、畏怖を覚えさせるものでしかなかった。
「……電話、させて……」
ようやく絞り出せた声。
足元から崩れ落ちそうな喪失感に、眼球の奥が重く痺れ、
夜の高田馬場が一転、まるで田舎のあぜ道の如く じっとりとした暗闇に浸蝕されていく。
「誰に?」
電話の相手を確認してくる匠海の声は、高圧的では無かった。
もう、解かっているのだろう。
弱みを握られた妹が、兄から逃げる様な愚かな事はしないだろうと。
「マドカ……に……。今日から泊めて、貰う、事……に……」
カスカスの声で ぽろぽろと理由を落としていく妹から、
兄はようやく、その手首の拘束を解いた。
「分かった。車で待っている」
虚脱状態の妹から、強引にスーツケースと斜め掛けボストンバックを取り上げた兄は、
そう言い残すと、駐車場へと続く路地を戻って行った。