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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第13章
漆黒のBMWに乗り込んでから、2時間程の移動の間。
ヴィヴィは薄暗い車内で己のボストンバックに縋る様に、ずっと胸に抱き締めていた。
「練習で疲れただろう? 寝ていていいよ」
「話がしたいだけなんだ……。取って喰ったりしないから、安心して」
運転席でステアリングを握る匠海は進行方向だけを見据え ぽつりぽつり、そんな言葉を投げかけてきたけれど、
車高の低い2シーターの助手席で頑なに縮こまった妹には、全く届いていなかった。
スポーツカーが目的地に辿り着いたのは、4月13日(土)に日付が変わってから1時間が経過した頃だった。
タイヤが砂利を踏み締める音で我に返り、いつの間にか落ちていた目蓋を億劫そうに瞬かせれば、
暗闇の中、外灯にぽつりと浮かび上がった建物を視界が捉えた。
(……ここ……、どうして……)
常軌を逸した兄との再会による緊張と そこからくる疲労で、いつの間にかウトウトしていたらしい。
車を停車させた兄がパーキングに入れたシフトレバーに掌を置いたまま、こちらを振り返ったが、
睡眠欲に後ろ髪を引かれながらもシートベルトを外した妹は助手席のドアを開け、静かに玄関アプローチに降り立った。
途端に頬を撫でたのは、湿度を含んだ冷ややかな風。
そして、それらに乗って運ばれてくるのは、紛れも無い潮の香り。
そう。
匠海がヴィヴィを連れ去った場所は、葉山にある篠宮が所有する別荘だった。
うっそうと茂った林に佇む、コンクリート打ちっぱなしの外壁と大きなガラス窓。
2階建てで横に細長いモダンな建物を、ぼへ~と見上がるだけの妹の傍。
トランクを開けた兄は、手早くスーツケースと鞄を降ろしていた。
玄関のタッチパネルに番号を打ち込み開錠し荷物を運び込む後ろ姿は、まるで鼻歌でも奏で始めそうなほど楽しげで。