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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第13章
そうして、やっと室内に妹の姿を認めた兄によって、次の命令が発せられた。
「お風呂もう少しで溜まるから、入ってくればいいよ」
キッチンの中を確かめているらしい匠海から掛けられた声は、あくまでもいつも通りで。
「………………」
一瞬の間ののち、兄の命通りに踵を返した妹。
「そうだ、一緒に洗濯機も回してしまえばいい。洗濯の仕方、覚えているか?」
頼りない背に投げられた言葉にヴィヴィは振り向きさえせず、そのまま1階にある家族風呂へと逃げ込んだ。
バスルームに併設したランドリールームには、既に自分のボストンバックが置かれていて。
己の行動の全てを先回りした匠海の気配りに、表情の乏しかった顔が剣呑に歪む。
兄の言う通りに洗濯までする事に釈然としない思いを募らせながら、それでもリンクで汗をかいたウェア等をそのまま放置するのも嫌で。
乱暴にボストンバックを持ち上げたヴィヴィは洗濯物を取出し、取り敢えず全ての衣類を洗濯ネットに入れると、
まるで苛立ちをぶつける様に洗濯機の中に放り込んだのだった。
バスタブに浸かってから かれこれ40分は経過したというのに、
白濁の湯にふんぞり返ったヴィヴィには、そこから上がる気配が全く無かった。
以前は事後に匠海に抱きかかえられて入る事が多かった、この家族風呂。
1人ではガランと広すぎるそこに、今日何度目となるかも分からぬ深い嘆息がまた落ちる。
湯気でしっとりと湿った金の頭の中、意識して消し去ろうと試みても拭えない記憶がこびり付いていた。
血の気の感じられぬ石灰色の裸体。
意識を失っている自分を貫く、男の姿は映り込んでおらず。
小さな画像として切り取られた過去の残像は、
どこか屍姦を匂わせる退廃した空気をも漂わせていた。