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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第13章      

(ノド……乾いた……)

 長風呂で余計に体力を消耗し身体の渇きを覚えたヴィヴィが、嫌々ながらもキッチンへ足を踏み入れても、

 妹の存在に気付いていないらしい兄はこちらに背を向けた状態で、バカみたいに広いリビングに据え置かれたソファーに腰掛けていた。

 その目の前、常ならあまり点けられる事の無い大型液晶テレビからは、深夜2時にも関わらずMotoGP(オートバイ世界最高峰レース)の映像が流れており。

 そのけたたましいエンジン音に混じり、微かにパタパタとタイピングの音が聞こえてくる。

(こんなところに来てまで仕事……? それも、こんな深夜に……)

 色気も糞も無いシロクマ柄ナイトウェアの肩を竦め、冷蔵庫のドアに手を掛けようとした、その時、

「おや……」

 遠くはなれた場所から届いた その小さな独り言に、金色の頭が自然とそちらを振り返った。



 黒い頭越し、テレビの液晶に映し出されていたのは、湖畔の木々に吊るされたハンモック。

 大木から縄編みのそれに移動した1匹のリスが、そこで微睡む女性に飛び乗ろうとした、次の瞬間。

 横からそっと差し出された大きな手に、ふさふさの尻尾を揺らせたリスは軽々と乗り移った。

 画面一杯に映り込むのは、サラサラの金髪が麗しい男性。

 ふっと緩めた灰色の瞳の下、薄い唇に人差し指を当て、件のリスに向かって悪戯っぽく「し~~」と囁く。

『君の透き通る肌に触れて良いのは、ただ一つ――100%オーガニックのものだけ』

 リスを乗せたのと反対の指の背が、木漏れ日に輝く白い頬を軽く撫でる。

『すべてのラインで、仏国オーガニック認証 “エコサート” 取得済み』

 小刻みに震える長い睫毛。

 そして、うっとりと持ち上げられていく女性の目蓋。

『中でもより厳しいラベル “Organic Cosmetic” の認証得た、その安心を貴女に――』

 ハンモックの足元、籐籠に入れられた基礎化粧品の瓶。

 そして、

 自分の頬を撫でるその相手が双子の兄だと気付き、ふんわりと安堵の微笑みを浮かべた、その女性は――


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