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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第2章
「……え……?」
驚いて隣を振り仰げば、いつの間に現れていたのか。
花器を手にして微笑んでいたのは、他でもない匠海で。
「だって、ヴィヴィの “生まれて初めての生け花” だろう? ちゃんと愛でてあげないと」
ぽかんとする妹に切れ長の瞳を細めた兄は、視線を作品へと戻し、しげしげと見入っていて。
「あはは! ほんと匠海はヴィヴィにゲロ甘だよね~っ」
生まれた頃から篠宮兄妹を知る、サラのそのからかいに、
「……だ、駄目……」
咄嗟に否定の声を上げたヴィヴィ。
なのに、
「ん?」
短く問うてくる兄の瞳が、あまりにも暖かくて。
まるで、自分に甘えているような魅力的な声音で。
思わず数cm身を引いたヴィヴィは、端正過ぎる顔から視線を反らし、
「……う……有象無象、も……」
テーブルの上に落ちていた、緑の蔦たちを拾い上げ、恐るおそる漆黒の花器の上へと巻き付けた。
「ぶははっ! “有象無象” も持ってけってさ、匠海~~!」
もう完全に面白がっている従姉妹達に、ヴィヴィは細い顎に梅干を作って黙り込む。
(だって、それもセットで1つの作品、なんだもん……)
言われ放題でしょげ返っている妹に、
「ああ、本当に可愛いな。ヴィヴィは」
兄は心底愛おしくてしようがないという風情で見下ろしてきて。
「………………」
何とも言えない表情を浮かべたヴィヴィは、皆に断ってサンルームを後にした。
(「駄目」ってなにさ、「駄目」って……)
青と白のギンガムチェックのサブリナパンツに包まれた細長い脚が、とぼとぼと廊下を進んで行く。
先程の自分の言動を、ヴィヴィは心底後悔していた。
あの場合の正解は、
『自分の部屋にアレンジメントを持ち帰るから、匠海にはあげられない』
――だっただろうに。
なのに、「駄目」なんて拗ねてる様にも取られる言葉を発し、
更には、貰ってもらうならば完璧な状態で――と、みすみす渡してしまった。
「…………なに、考えて……」
誰もいない広く長い廊下に、細く掠れた自問の声が漏れる。