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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第2章
今更 兄に可愛と思われて、どうしようというのか。
瞳子と自分を比較し、その先に何を見出そうとしているのか。
自分は匠海に裏切られ、騙され、
兄の幸せと、周りの安寧を願い、身を引いたというのに。
なんで1年超も経った今、こんな阿呆丸出しの状態で悶々としているのか。
「………………」
のろのろとだが、確実に部屋へと向かっていた脚が止まり。
(ああ、もう、駄目だ……っ)
ふるふると金色の頭を振ったヴィヴィは踵を返し、今度は迷い無く廊下を突き進んで行った。
辿り着いたのは、防音室。
漆黒のグランドピアノに向き合ったヴィヴィは、鍵盤の蓋を開け、フェルトカバーを外し。
何の躊躇いも無く、両手を白黒の規則正しいそこへと這わす。
オペラ『LULU(ルル)』からの交響的小品より “バリエーション”。
昨シーズン、己のFSで滑ったオーケストラ用のその曲を、ヴィヴィは苦虫を噛み潰した表情で奏で始める。
『LULU』――
ヴィヴィが異様なくらい心酔するその人は、
19歳の時の自分が、裏切った匠海に対して、
言えなかった言葉、
出来なかった行動、
それら全てを “成し遂げた人物” だった――。
◇◇◇
12歳の少女・ルルは貧民街にいたところを、シェーン博士に拾われる。
叔母に預けて礼儀作法を身に付けさせ、ダンスを習わせてみると、ルルはめきめきと上達した。
しばらくし、シェーン博士は、その子を “ミニョン” と名付け、妻と息子・アルヴァのいる我が家へ迎え入れた。
病弱だったシェーン博士の妻が死ぬと、ルルは自分が後妻になれると期待した。
しかし、シェーン博士は高級官僚の娘と交際を始め、ルルには(資産家だが年寄りの医科部長)ゴル博士との結婚を仕組んだ。
自分のことを “ネリー” と呼ぶ、孫ほども年齢の違う老人と結婚させられたルルは、満たされない毎日を送る中、
シェーン博士との愛人関係は、相変わらず続いていた。
ある日、絵のモデルをしていたルルに画家が言い寄り、その浮気現場を目撃した(1人目の夫)ゴル博士は心臓麻痺で死亡する。