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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第14章
己の傍らで見下ろしてくる灰色の瞳が、幸福だった頃の過去を想い出してか、
押し殺せぬ怒りの中にも、一瞬だけ憂いを映し出していた。
「違う。他の男と」
「……誰……?」
「私の、一番傍にいる男」
何故か虚空を見上げながら口を開く妹の横顔に、兄は一瞬遅れて嘆息を零す。
「……なんだ。朝比奈か」
「ここで、寝たわ」
「嘘だ」
全く信じず軽くあしらう匠海に、しかしヴィヴィも淡々と続ける。
「嘘じゃない」
「冗談はよしなさい。朝比奈がお前に手を出すか」
正面から向けられる窘める言葉にも、大きな瞳は ぼうと己の隣を見上げるのみで。
「「慰めて」っておねだりしても無理だったから、私から脱いで――」
裸体の肩にバスローブを掛けただけの自分が、亡霊の如く佇んでいて。
まるで私に「復讐して」とでも言いたげに、怒りと後悔をごちゃまぜにした双眸を向けていた。
「そうしたら、その気になって抱き締めてくれて――慰めてくれたわ」
己の幻覚から視線を外したヴィヴィは、ようやく真向いの兄へと向き直る。
「そう、ちょうど そのソファーでね」
「……――っ」
テーブルにマグカップを下す鈍い音を聞いたかと思えば、
バスローブに包まれた細い両肩は、ソファーの背凭れに押し付けられていた。
「嘘だ」
「………………」
腕一本分の距離で睨み下ろしてくる兄を、妹は淡々と見上げるのみで。
その態度が気に入らなかったのか、オフホワイトの両襟を力任せに掴まれたと思えば、
乱暴に肌蹴させられた胸元が、凹凸の少ない肌を朝の光に晒される。
「この躰を触らせたのかっ? 本当に――!?」
「………………」
「嘘だ……っ」
昔の女が他の男に寝取られ、耐えられないのか。
自分のものと信じ切っていた女に裏切られ、悔しいのか。
だが、ヴィヴィからしたら兄の受けたショックなんて、もうどうだってよかった。