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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第2章    

 ルルみたいに、

 結婚しようとする匠海に、捨てられまいと必死に縋り付けば良かったのだろうか?
 
 ルルみたいに、

 匠海に婚約も結婚も、破棄させてしまえば良かったのだろうか?
 
 ルルみたいに、

 匠海に面と向かって、洗いざらい自分の思いと感情を、ぶちまければ良かったのだろうか?

「………………」

 あの時の自分は、それら全てを成さなかった。

 事実を知ってから長い間、匠海本人と会う機会が持てなかったというのも、一因としてあるが。

 自分はきっと「怖かった」のだと、今になって解かる。

 瞳子と、そして兄の子供。

 結婚も出産も出来ない妹の自分。

 その両者を天秤に架けられて、匠海がヴィヴィを選ぶ筈が無い。

 そう。

 19歳の自分は “己自身がこれ以上傷付きたくない” から、

 匠海に対して本気でぶつかり、玉砕する事が出来なかった。

 あの時、ちゃんとそうしていれば、

 もしかしたら今の――21歳の自分は、

 こんなにも簡単に、匠海の言動に一喜一憂するような、

 馬鹿な女には成り果てなかったのかも知れない――。



「あ……。ヴィヴィが、また難しい曲、弾いてる……」

 突然掛けられたその声に、なかばヤケクソ気味にピアノに向かっていたヴィヴィが顔を上げ。

 ペダルから足が離れた途端、防音室に響いていた音色はすぐに掻き消された。

「……サラ……」

 分厚い扉を押し開けた状態で、こちらを見つめていたのは従姉のサラだった。

「私、ヴィヴィのスケートは大好きだけど……。この『LULU』だけは、どうしても駄目だったな……」

 サラが人差し指と中指で、小人の足を模したようにトントントンと、ピアノの黒い表層を叩いて近付いて来る。

「ふふ、よく言われたよ。まあ、音楽自体も難しいしね……」

 馬鹿正直なサラの言葉に、ヴィヴィは細い肩を竦めながら苦笑する。

 昨シーズン、それこそ耳にタコが出来るくらい、周りからそう言われてきた。

「う~~ん。それも、あるんだけど……」

「ん?」

 言い難そうな様子のサラは、ヴィヴィが腰かけている長椅子に、女性らしい膨らみを持った尻を乗せ、

 細い右半身に凭れる様にくっついて、こちらに背を向けて座った。

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