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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第2章    

「う~~ん、上手く言えないんだけど……。ヴィヴィ、凄く苦しんでた感じがしてて……」

「え……?」

 咄嗟に振り返ったすぐ傍には、俯きがちのサラの美しい金髪があって。

「ヴィヴィのピアノを聴く度に、滑ってる姿を観る度に……。なんか、泣き声を聞いてるような、悲鳴を聞いてるような、そんな気分になった……」

 そう続けた従姉に、ヴィヴィは少なからず驚いていた。

 沈黙したままのヴィヴィを、ゆっくりとサラが振り返る。

「だから、本当は滑って欲しくなかった。でも、ヴィヴィから『LULU』を取り上げちゃったら、なんか危なっかしい感じがしたから……」

「………………」

 彼女の言う通り。

 昨シーズンのヴィヴィは、『LULU』を弾くことで、演じることで、

 どうしても消化出来ない心の中のもやもや や苛立ち、底なしの虚しさと、

 何とか折り合いを付けようと、それこそ必死にもがいていた。

 互いに見つめ合ったまま、何も発しない従姉妹同士。

 しかし、その沈黙を破ったのは、何故か ゴツリという鈍い音だった。

「あいたっ な、何すんのぉ~~っ!?」

 前髪の無いおでこを両手で押さえたサラが、驚きの表情でヴィヴィを睨んでいた。

 頭突きが成功したヴィヴィは、にやりと嗤って満足気で。

「ところで、何か、用だった?」

 そう用件を促したヴィヴィに、

「え……? あ! そうだ、プールで泳ごうって探してたんだった」

 当初の目的を思い出したサラは立ち上がり、ヴィヴィの腕を引っ張って防音室から連れ出した。

「てか、ヴィヴィの石頭~~。たんこぶになったら責任取れ~~っ」

 部屋へと戻る道すがら、まだおでこを押さえて涙目のサラに、

「ん? 責任取って、嫁に貰ってあげようか?」

 「にひひ」と悪そうに嗤ったヴィヴィ。

 2014年3月29日。

 英国のイングランドとウェールズ地方では、同性婚を認める法律が施行されていた。

「ぶはっ せ、せめてクリスの嫁にしてぇ~~! 女には興味ないよぉ~~っ」

 べしっと背を叩かれたヴィヴィは、痛がりながらも、

「ははっ 確かに」

 そうおかしそうに同意したのだった。

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