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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第15章
勿論、今回 日本で創り上げた新エキシビも、録画したものを事前に英国にいるコーチ陣へ送ったのだが。
その着眼点と、モダン・バレエさながらの複雑な振付を既に “踊れている” 状態に、お褒めの言葉は頂いたものの、
それでも お爺ちゃんコーチは、手離しで「じゃあ、これを今シーズン滑ろうね」と言えない様な、
どこか奥歯に物が挟まった物言いで了承してくれたのだ。
フランベしたブランデーを垂らした紅茶。
そのカップを両手で包み込みながら、ヴィヴィが続ける。
「ねえ、ジャンナ?」
「なあに?」
「どうして私の振付、受けてくれるの――?」
17歳の新シーズンを目前に、ジャンナはヴィヴィの振付依頼を断った。
『今の私には、ヴィヴィ、貴女が見えない……』
『今の私には、ヴィヴィの “思い” が分からない……』
断りの理由を面と向かって説明してくれた、誠実な振付師。
それからのヴィヴィは懸命にフィギュアと向き合いながら、いつか彼女の方から「振付をさせて欲しい」と言われる時が来るのを心待ちにしていた。
そしてその機会は図らずも、渡英した20歳の春、
オペラ『LULU』の振付を受けてくれる振付師がおらず困窮していたヴィヴィの元へ、ジャンナの方からもたらされた。
昨シーズン、SPはタンゴの振付が得意な振付師に、FSは宮田に頼んだが。
今シーズン、SPの依頼をしたヴィヴィに、ジャンナは2つ返事で引き受けてくれた。
同じくティー・ロワイヤルを飲み下した振付師は「そうねえ」と呟きながら、煌々と燃え盛る暖炉に視線を移す。
「以前、断ったときのヴィヴィは、地に足が着いていなかったわ」
ことりと微かな音を立て、テーブルに置かれるティーカップ。
「現在も……そうね、そんな感じも受けるのだけれど……。
けれど、今の貴方は「男かフィギュアか」どちらかの選択を迫られても、即答出来ると思うのよ」
「………………」