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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第15章
千里眼とはかくや。
真っ直ぐに向けられた緑色の双眸を受け止めながらも、金色の頭の中はボンヤリと霞がかり。
過去の自分が夢見るように口ずさんだ、紛い物の愛の言葉を繰り返す。
『ヴィヴィね、これからはずう~っとお兄ちゃんの傍にいるね』
『スケートも東大受験も辞めて、ずっとお兄ちゃんの傍にいるから。だからもう、寂しくないよ?』
『大丈夫。分かってるから。ヴィヴィはずうっとお兄ちゃんの傍にいるから。それがヴィヴィの幸せだから――』
『本当は痛いのも、ちょっと怖いの……。でも、お兄ちゃんがくれるものだったら、ヴィヴィ、我慢する。だってヴィヴィはお兄ちゃんのものだもの――人形、だもの』
『ヴィヴィ。嬉しかった。お兄ちゃんが昨日、「俺の可愛いくてエッチな “お人形さん”――ずっと大切にするから」って言ってくれて』
「違ったかしら――?」
追憶から引き戻す、ロシア語の問い。
その声掛けに ぼんやりと曇っていた灰色の瞳が、現実を見据えんと明瞭さを増し。
「いいえ……。いいえ、その通りです」
愚かな――けれどそれでも幸福だった過去の自分と決別せんと、長い睫毛を湛えた目蓋を大きくひとつ瞬きさせる。
“昔の自分” なら盲目的に匠海を選択した
だが “今の自分” は――違う
兄妹が陥っている、現在の不適切な関係
その最後通牒を突きつけるのは匠海
それは今でも変わらない
けれど
もし自分に対し
「兄かフィギュアか」と選択を迫られれば
“今の自分” は一片の迷い無く
フィギュアを選択するから――