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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第15章
相手が女のヴィヴィでもお構いなしに毒牙を向いて襲いかかろうとしたダリルを、すんでの所でクリスが首根っこを掴んで辞めさせる。
「……これで異論ないよね? じゃあ、とっとと市街地に繰り出すよ……!」
彼にしては急いた様子で二人を追い立てたクリスは、いつまでも爆笑する妹と、その姿にメロメロの同居人を、表に待たせていたタクシーに押し込んだのだった。
レース期間中ということもあり、どこもかしこも人人人。
高級リゾート地らしく行きかう車は高級車ばかりで、港には豪華クルーザーがぎっしり浮かんでいた。
てっきり三人を乗せたタクシーも、世界で最も有名なカジノや高級ホテルが集中するモンテカルロ地区に向かうのかと思いきや、
「これ以上、車で行くのは無理だよ」と運転手に降ろされたのは、中世から続く旧市街モニャコ・ヴィル地区。
人でごった返す大公宮殿前の広場から先は急に下町的な雰囲気に包まれ、南欧特有の黄色やオレンジ、ピンクといったカラフルな建物に挟まれた路地が延びている。
その内の一本に足を踏み入れると、やっと人通りもまばらになった。
「す、凄い人だったね」
各チームのグッズを身に纏ったF1サポーターや観光客の多さに、驚きを隠せないヴィヴィと、
「なんか、行きかう人みんなが億万長者に見えるゥ♡」
と目を$マークにするダリルと、
「……ここのカフェで、一息入れようか……」
あんなにサーキットに行きたがっていたのに、路面に二席出されたこぢんまりとしたカフェに何故か落ち着くクリス。
火照った体をアイスコーヒーでクールダウンしつつ辺りを見回せば、旧市街という名にふさわしい街並みに、一気に数百年の時をさかのぼったかのような感覚に陥った。
(なんか意外……。モニャコと言えば THE・お金持ちの街 というイメージだったけど……)
まるでイタリアの下町のような親しみやすい雰囲気に、元からいる国籍者(モガネスク)は質素で慎ましい生活をしている人が多いという印象を受けた。
この地に関する感想を互いに言い合っていると、心地良い静けさを破り微かに響き始めた、アップテンポな英語の曲。
今から12年ほど前に流行した耳馴染みの良い曲に、ヴィヴィがショートカットの金髪を微かに揺らしていると。
向かいの土産物店の三十代風の男性も同様に、脚でリズムを刻んでいて微笑ましくなる。