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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第15章
「Hey BABY, I think I wanna marry you――」
最後の歌詞を口ずさみながら背後から現れた人物に、ヴィヴィの細い喉からは とうとう「ひぃ……っ」と情けない悲鳴が漏れた。
「ヴィー! 俺の女神! 結婚してくれっ!!」
漆黒のタキシードを纏った いつも以上に無駄に美しすぎる男――この国の皇太子たるフィリップが、下町感たっぷりのカフェの店内に片膝をつき。
そして、その両手に恭しく掲げ持っているのは、これまたベタすぎる特大カラットのダイヤの指輪だった。
「え、嫌。てか、無理」
幾多の矢印が突き刺さるかのような衆目を一身に集めた気まずい状況にも飲まれる事無く、間髪入れずバッサリとプロポーズを断ったヴィヴィ。
(ていうかさぁ……、今時 “フラッシュ・モブで求婚” って……)
これ以上ないほどドン引きしながら心の中で突っ込んだ目前、コミカルなほど悲壮な表情を浮かべたフィリップが、がっくりと広い肩を落とした。
その直後。
「ちょ~~っ!!! 坊(ぼん)! 絶対にOKを貰えるんじゃなっかたのかよ!?」
「そうだよ坊、話が違うよぉ~~」
「俺たち、レース前で忙しいのに、ひと月も前から練習してたんだぜ~~? フィルが絶対「これで嫁さん、捕まえられる!」っていうからさ~~」
場を盛り上げていた筈のダンサー?達が失恋したばかりの男に容赦なく詰め寄っていくが、意外や意外、当の本人はあっけらかんとしており、陽光を跳ね返すウェーブの髪を掻きながら首を傾げた。
「悪い。ごめんごめん……。って、あれ~~? おっかし~な~~?」
その様子に、事の成り行きを傍観していたクリスはといえば、常と同じく無表情で。
ダリルは俯いて肩を震わせていたが耳が真っ赤で、どう見ても必死に笑いを噛み殺している。
(つ~ま~りぃ~~? モニャコへ拉致するだけじゃなく、求婚までがゴキブリ王子との取引だったんだな、こんにゃろめ~~っ)
二人へ向かって胡乱な瞳を向けていると、
「まあ、坊だからしょうがねえかぁ~~」
「なんやかんや、楽しかったしな」
「てか、今時フラッシュ・モブでプロポーズってww ぶふふっ(笑)」
「いやそれ、私も思ったけど!」
「じゃが、時代は繰り返されるというし、またブームが来たのかと思うてのう?」