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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第16章
ロンドンの父の生家での滞在も、残り一日となったその日。
父は「オックスフォードの級友達が集まってくれたから」とロンドン郊外へ出掛け。
母は「ショーンコーチのとこ、お邪魔してくる~~」とオックスフォードに向かい。
匠斗は「イヤイヤ~~」といつも通り。
双子は午前中リンクで滑りこんだ後は暇で、連れだってHarrods(高級百貨店)を冷やかしに行ったのだが、
数時間後、何故かヴィヴィだけSHINOMIYA Holdings PLC――つまり、ロンドン支社にいた。
サマーバケーション中とはいえ会社機能は通常通り、受付でヴィヴィを目にした社員はすぐにCEOルームへ通してくれた。
インド人男性の社員に促され入室した妹を認めた途端、兄の整った顔に浮かんだのは。
「驚いた顔」
対照的にくつりと酷薄な笑みを浮かべたヴィヴィは、深い絨毯を滑るように歩を進める。
そんな妹に、デスクに腰かけていた匠海は「そりゃあ、驚くよ」と、ようやく余裕を滲ませた苦笑を零した。
「ダッドとマムは知人に会いに。匠斗は……イヤイヤしてる」
「ふっ クリスは?」
待っていれば自分の為の茶が供されるだろうに、黒光りするデスクに置かれた茶器を取り上げたヴィヴィは、それを一口飲み下す。
「……Harrods Technology(高級百貨店の電化製品売り場)でスパイ用品、冷やかしてる……」
あけすけに げんなりした表情を浮かべたヴィヴィに、匠海は「なんだそれ」と吹き出した。
「それで? お前は何をしにここへ?」という質問が来れば、ヴィヴィは迷わず「セフレとして美味しいとこだけ つまみ食いに」と答えてやったのに。
妹の好きなようにさせ、自分は目を通していたらしい書面に視線を落とす兄に、灰色の大きな双眸は値踏みするようにCEOルームを見渡した。
表参道の本社社屋では最上階(50階)にプレジデントフロアがあったが、ここは木目調の仕切りが洒落たガラス張りの部屋が だだっ広いフロアに整然と並んでおり、CEOルームもその一角にあった。
隣の部屋とは普通の壁があるが部屋の前を通る人間には丸見え状態のそこから、ガラス越しに働いている社員達を見渡せば、まるで色とりどりの熱帯魚が泳いでいる水槽のようにも見えた。