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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第16章
逆を言えば社員達から見れば、兄妹は小さな金魚鉢に閉じ込められた哀れな観賞魚に映るのかもしれない。
広い空間は空調も整えられているのに何故か少しの息苦しさを覚え始めたヴィヴィに、背後からかけられた声。
「お前はこういう服、本当に似合うな」
「え?」
振り向いた妹を、兄はちらりとだけ見やって、また視線を落とす。
「お嬢様然とした清楚なワンピース、凛として楚々として、いいな」
ボートネックのシンプルなAライン黒ワンピに、パールの飾り襟という出で立ちを褒められたが、
対する匠海は日本でのスーツ姿とは違い、水色のオックスフォードシャツに紺のパンツというリラックスしたスタイルだった。
世界有数の高級百貨店に出向くのに見劣りしない装いを――と思い選んだだけのコーディネートだったが、兄には清楚なお嬢様に映るらしい。
とたん、その外見とは似つかわしくない行動に出るヴィヴィ。
デスクの天板、椅子の肘置き、その背もたれ――と順繰りに辿っていく、細い指先。
まるで身軽な黒猫がそうするように、折り曲げた第一関節で引き締まった頬の輪郭を擽れば、余所行きの顔を浮かべていたそれは微苦笑を湛え。
ノースリーブから伸びた細腕がたおやかに首に巻きつけられる直前、大きな掌はリモコンひとつで瞬間調光フィルムが張り巡らされたCEOルームの視界を遮断した。
せいぜい焦るかと思いきや余裕綽々の兄が、妹は少し気に入らない。
白く煙ったガラスに閉ざされた空間に、更に大胆さを増していく。
横から絡めた腕の中、皺ひとつ無いシャツの襟元に鼻を埋めうっとりと吸い込みつつ、指先は張り出した喉仏の輪郭を辿り続ける。
「ヴィヴィ」
「……なあに?」
「当たってる」
「………………?」
「ヴィヴィのふわふわおっぱいが、俺の腕に当たってる」
兄のその指摘に妹はさも当然そうにひとつ、大きな瞳を瞬いた。
「当ててるんだもの」
「ふっ、小悪魔め」
すらりと高い鼻梁から、ふっと抜ける息。
横からでも兄の大き目の唇に笑い皺が刻まれたのが分かった。
「まだかかる?」
「あと少しでチェックし終わる。座って待ってて」
切れ長の瞳はようやくヴィヴィに焦点を当て、しかしそれも一瞬のこと、目線だけで目の前の応接セットを示すとまた書面へと注がれた。