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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第16章
ヴァイオリン、次いでチェロ、ピアノと語り継がれていく、第一主題。
不安感にさいなまれた旋律が次第に増幅されていき、最後の炸裂とともにピアノが爆発の破片を連打で撒き散らしていく。
長兄らしくテンポを操り曲を引っ張っていく少し強引とも取れる響きに、双子の視線がぶつかったのは ほんの一瞬だけ。
そして冒頭の第一主題が断固として再現され、そのまま深い雪の中に埋もれていくかの如く、30分にも及ぶ三重奏は終結した。
「…………ふぅ~~」
薄い唇から洩れた充足の吐息に、兄達のそれが重なる。
広い防音室に満ち満ちていた緊迫感が、一瞬にして霧散した。
左肩から楽器を降ろそうとしてやっと、毟った覚えのない弓の毛が己の膝の上に散らばっているのに気が付いた。
それらを拾おうとした時、申し訳なさ程度にパチパチと送られてきた拍手の音に「そういえばオーディエンスがいたっけな」と顔を上げた。
しかし、何故か聴衆――母方の従兄妹達の表情は、皆おしなべて冴えない。
「ん?」と首を傾げて見せたヴィヴィに、一番気心が知れたサラが口を開いた。
「さ……、ささささ、3人とも……っ け、喧嘩でも、しているの?」
何故か盛大にどもった従姉の感想に、他の従妹もぶんぶんと首肯しながら「こ、怖かった~~っ」と溢し始める。
「? そう?」
確かに親友の死を悼んで奉げられたこの三重奏には、随所に悲痛な旋律が散りばめられており、幾分グロテスクな印象を与えるのかもしれない。
引き攣った従姉妹たちに苦笑するヴィヴィとは別に、兄二人はチェロの高音の難しさを口々に言い合っていた。
「親指の支え、が無いの……、キツい……」
「まあな、高音は指の間隔も狭いしな~~。でも、クリスの緻密な指運びが成せる業だよな」
「いや……、それなら、兄さんのほうが、……」
「それに、しっかりした体幹をもってして、だな。さすが現役アスリート」
チェリストならではの悩みを聞きとめつつ、ヴィヴィはポニーテールの頭を振る。
「ご覧の通り、喧嘩なんてしてないよ~~。ただ――」
そこで言葉がつかえたヴィヴィに、サラが「ただ?」と先を促す。
しかし、発した本人も、その後に何を続けたかったのか分からなかった。
ただ解らないなりに、何か良くない様な、虫の知らせが働くというか、言葉に出来ない何かが薄い胸の中に去来する。