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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第16章
そして、ある時、ふと身近に感じた、鴉(カラス)の存在。
早朝に街のゴミを漁り、はたまた、死肉を好んで啄む――鴉。
鳥葬によって死者を送り出していた古来の人々にとり、肉食性であるカラスは猛禽類と並び、死者の魂を神々の元へ送る大切な役割を持つ。
「パガニーニの主題による変奏曲」
作曲:ヴィトルト・ルトスワフスキ
今季のSPの選曲に物申した振付師の顔を思い出し、内心苦笑いする。
『パガニーニと言えばラフマニノフ!』
『クリスと合わせてヴィヴィも “妖精” になっちゃいなさいよ!』
兄のSPと重ね合わそうとする恩師の救いの手にも「だから、そんな綺麗なものは私にはそぐわないってば」と、今でも思うことは変わらない。
互いに羽根を持つけれど、全く相容れない両者。
突飛な和声をねじ伏せていくクリアな足さばきは一踏み毎に温度を上げ、連動したアームスの先に翻る、鴉の濡れ羽根とはかくや――な、艶めく袖飾り。
2ndピアノが下降しながら静かに奏でる第六変奏を惹き立てるように、1stピアノが昇りながら寄り添う。
演技後半、難しい入りからの3回転ルッツ+3回転ループの出は、着氷スピードに乗ったアウトサイド・スプレッドイーグル。
蜂の羽音を連想させる第七変奏に乗せたスピンは、ウィンドミル → サイドウェイズ・リーニングスピン → キャッチフット・レイバッグ → ワンハンド・ビールマンへ。
鮮やかな装飾音符で雪崩れ込むのは、主題を編曲した最後の第12変奏。
スリル溢れるスピード感満載の和音に鳥肌を立たせつつ、難解なステップを踏んでからの3回転フリップは漆黒を纏った両手を挙げて。
最後の要素となる足換えコンビネーションスピンは、バックエントリーのバタフライで氷と水平に跳び上がり。
チェンジフットしてもどんどん加速する回転に、締め括りのI字スピンの頃には会場のボルテージが最高潮に達していた。
コーダ――結尾部という名に相応しい悪魔的かつ幻想的なそれに重ねる、シット・ツイズル。
パンケーキ・スピン(フリーレッグを軸足の膝に乗せ上半身をかぶせる)の状態で回転しながら移動したのち、上体を極限まで反らせてのフィニッシュ。