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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第16章
2分40秒という短い時間、前衛的な2台ピアノの魅力を思う存分愉しめる曲とスケーターの鬼気迫る演技がシンクロし、客席が一瞬の静寂の後に総立ちとなった。
過酷な運動に上下する己の胸越し、煌々と降り注いでくる照明が目に染みる。
静かに閉じた黒のラインが際立つ目蓋の裏、浮かぶのは幾つもの過去の残像。
「………………」
初戦にしては充分過ぎるほどの手応え。
おそらくレベルの取り溢しも無く、加点もかなり見込めるだろう。
けれど――
(私は一体……、この先、自分をどう『変幻』させたいのだろう……?)
変わりたいのか。
それとも、命尽きるまで現状のまま居たいのか。
それすら解からぬ宙ぶらりんな自分を頭から追い出すように、鴉の羽根を纏った金の頭はぶるりと大きく振られ。
そして、ようやく満足げな笑みを湛えた紅い唇は、ゆうるりと観衆に向けて綻んだ。
※W. Lutoslawski 「Varitions on theme by Paganini」
https://www.youtube.com/watch?v=eWRhiETZABk