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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第16章     

「……せんせ~~、またそんなこと言って! 奥さんに言いつけちゃいますよ~~?」

胡乱な瞳で長身の男を見上げれば、端正な顔が明らかに狼狽する。

「え――っ そ、それだけは勘弁! だって、うちの奥さんたらさ~~、超やきもち焼きだからさ~~」

最後に惚気を挟んでくるあたり、新婚ホヤホヤで上手くいっている証拠であろう。

「はいはい」と肩を竦めたヴィヴィに、手を置いていた白砂はポンポンと叩いてからそれを引っ込めた。

この元恩師は「奇跡的な出会いがあった!」と同業者と電撃入籍を果たし、今や既婚者なのだ。

「あ、そうだ。今先生」

「ん? どうした?」

「明日なんですけど――……、って、あ、やっぱ良いです」

言い掛けて止めるなど凄く気にさせることを咄嗟にしてしまい、案の定「なになに!? もしやデートのお誘い?」と突っ込んでくる相手に、ヴィヴィは何度も謝るしかない。

(今シーズンのSPを一緒に弾いて欲しいなと思ったけど、クリスマス直前の新婚さんにそんな事お願いできないよね、やっぱり)

二台ピアノの曲を彼と愉しめればと思ったが、馬に蹴られたくないヴィヴィは誤魔化してヘラヘラ笑って見せた。



真行寺兄妹といい、自分の周りの大切な人々がそれぞれ幸せの形を見つけ、着実に先に進んでいる。

時間は止まらないし巻き戻せない。

そんなこと、嫌というほど解かっているのに。

先の見えない己の行く末に、年々静かに降り積もっていく恐怖とも焦りともつかない、もやもやしたもの。

「年を取る」とはこういうことを言うのだろうか。

向こう見ずで猪突猛進だった十代の頃を思い出し、それらを苦みを纏った笑みと共に飲み込んだ。





クリスマス・イブを松濤の実家で(兄夫婦も交え)団欒を過ごしたのち、双子は英国の地に戻り、3月に控える世界選手権へ向けての調整に入り。

そして2024年12月31日――本年の締め括りとなるその日は、イタリア・トリノの地でNew Year’s Ice Gala2025の一員として過ごしていた。

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