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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第17章
それならば前もって言ってくれれば、昨夜このホテルで会えたのに――
そう一瞬思ったヴィヴィだが「翌日にFSを控えた身でありながら密会するのは、現実的では無いな」と、尖りそうになっていた唇を引っ込ませた。
「お兄さん♡ おはようございます~~♡ ていうか、ご無沙汰してま~~す♡」
匠海がタイプだというマリアは、言葉の端々に♡を飛ばしながら匠海ににじり寄る。
「マリアちゃん、久しぶり。昨日のFD観たよ。しかし、リンクの中でも外でも、すっかり大人の女性って感じで見違えたな」
「え~~♡ 匠海さんにそう言ってもらえると、ホント自信つきます♡」
「うん。ヴィヴィにも見習ってほしい」
なんで毎度オチが妹なのか。
各方向から注がれる「美味そうな九頭身美形男子」への熱視線を全く介せぬ兄に、愚妹は歯軋りするしかない。
「……どうせぇっ!」
「あはは、冗談だよ」
完全にへそを曲げたヴィヴィに破顔した匠海は、頭一つ分下にある金のそれを撫でる。
「ふふ、相変わらずお兄ちゃん子だね、ヴィヴィは」
自分は兄 兼 ペアのアルフレッドと仲の良いマリアの突っ込みに、もうお兄ちゃん子は卒業したヴィヴィは「どぉ~こぉ~がぁ~~?」と白い歯をイーとして見せる。
「そうやってムキなるところが、だろ」
「ムキになってないし! ていうかっ いつまでもナデナデしないでってば!」
22歳と思えぬ落ち着きの無さに、面白がったマリアまで頭をなでなでしてきて、いい加減 頭がぼさぼさになってきた。
金の鳥の巣状態の頭を両腕で庇い「二人ともっ やめ――」と言いかけた、その時。
「ヴィヴィちゃん」
背後から掛けられた己の名を呼ぶ声に、咄嗟に振り返ったヴィヴィ。
頭を抱えたアホみたいな姿勢のまま、薄い唇から零れた、その人は――
「……っ お、お姉さん……」
義妹に呼ばれにっこり微笑んだ瞳子は、胸に抱いていた生後八ヶ月の息子――瞳吾(とうご)の手を取り「ヴィヴィちゃん、おはよ~~」とおどける。
片や、ボサボサ頭にスポーツウェアの女。
片や、0歳児を育てていても頭の先から爪先まで手入れを怠らず、完璧すぎる程の上質な女。
本来なら義姉に微笑み返して、甥をあやしたり抱っこしたりしなければならないのに。
そう、頭では解っているのに、身体はすぐには動いてくれない。