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淫と乱
第5章 ドロドロ
 
 何で教室を出たのかアタシにも分からない。

 心配そうに見詰める真希の顔を見ていたら、何故か傍に居たらいけない気がした。

 別に真希が嫌いな訳じゃない。

 真希が憎い訳でもない。

 何だかんだで、真希とは仲が良い筈。

 なのに、アタシは真希と距離を置こうばかりに教室を出ていた。

 授業も始まるというのに、下腹部に手を当てて気怠さを感じた儘、アタシの脚は勝手に廊下を進んでいく。

 チャイムが授業開始を知らせる。

 不思議と誰とも擦れ違わない。

 教室と廊下の堺には、窓が付いている。

 教室の中から、廊下を歩くアタシの姿は見えている筈。

 それなのに、他の教室に居る生徒も先生も声は疎か、視線さえも向けて来ない。

 まるで、此処にアタシが存在していないかのように授業が進められている。

 アタシの脚も、見られていないのが分かっているかのように、躊躇う事も無く進んでいく。

 一体、何処に行こうとしているのか分からない。

 アタシの脚なのに、アタシの意思に関係無く進んでいく。

 歩き続ける程に増していく倦怠感。

 体が重い。

 勝手に歩かされて、いい加減イヤになってきた。

 そんなに広くない校舎から上履きの儘外に出た。

 明るい陽射しに嫌悪感を芽生えさせた頃、漸く動き続ける脚が止まった。

 見慣れた部室の扉の前だった。

「…あっ………あぁっ…もぉ………」

「……んはぁ……はぁ……私…も………」

 薄い扉越しに艶めかしい声が洩れていた。

 それでも、その声に吸い寄せられるように、アタシの手は躊躇う事も無く扉を開いた。


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