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淫と乱
第5章 ドロドロ
 
 恭子先生の娘である、霧島さんの後ろの席に座る女の娘。

 あたしと同じで小麦色の肌をした、見た目に活発そうな女子。

 教師であるあたしに声を掛ける事も無く、教室の後ろの扉から出ていった。

 それに対して、教室に残った生徒たちの反応。

 振り向いて彼女の姿を見詰めていた霧島さんを除いて、誰もが気にした素振りも見せずにあたしを見ている。

 普通であれば、いきなり教室を出ていけば、誰かしら顔を向ける筈。

 それなのに、誰一人として彼女を見ようとしなかった。

 唯一、彼女を見送っていた霧島さんでさえ、彼女の後ろ姿が廊下に消えれば、何事も無かったかのようにあたしを見てくる。

 どう考えたっておかしすぎる。

「暫く自習」

 違和感が頭から離れない。

 自習だと聞いても、取り立てて騒ぎもしない生徒たち。

 普段なら、大騒ぎになっている筈の教室の雰囲気に、あたしの違和感は膨れ上がるばかり。

 短い言葉を発してから、慌てて教壇を下りる。

 黒髪のポニーテールを揺らして教室を出れば、廊下の先を歩く女子の姿。

 誰も授業中に廊下を歩く彼女にリアクションを見せない。

 まるで、最初から彼女は存在していないかのよう。

 直ぐに教室を飛び出したあたしでも、気を抜けば彼女の姿を見失いそうだった。

 あまり大きくない校舎。

 それなのに、時々彼女の姿が霞んで見えてくる。

「後で自習の結果報告聞くからね」

 教室に向かって言葉を吐き出せば、いつものようなブーイングの合唱。

 それでも、あたしはフラフラと歩く彼女が気になって仕方ない。

 何で、誰も彼女に何も言わないのか不思議で仕方ない。

 廊下の角を曲がって姿を消した彼女。

 教室から飛び出したあたしは慌てて追い掛けた。
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