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淫と乱
第5章 ドロドロ
 
 あたし以外は誰も気付いていないのか、誰も彼女を見ようとしない。

 廊下から他のクラスを覗いても、何処も普通に授業を進めている。

 あたしと目が合った、同僚の教師。

 あたしに気付いていない筈はない。

 バッチリ目が合った。

 しかし、同僚は何事も無かったように授業を進める。


…何で…あたしまで……


 疑問が浮かんでくる。

 しかし、脚を止める事も、フラフラと廊下を進む彼女から意識を外す事は出来なかった。

 覚束ない足取りながら、やけに歩くのが早い。

 油断したら見失いそうだった。

 気になる事が後から後から沸き上がってくる。

 モヤモヤ感がハンパない。

 溜まったモヤモヤを晴らそうと、腕が壁を叩こうとする。

 脚が壁を蹴ろうとする。

 しかし、以前、それをやって校長に怒られたのを思い出した。

 ただでさえ安月給なのに、修理費を天引きされた。

 満足にご飯を食べられなかった事を思い出したら、八つ当たりを堪える事が出来た。

 堪えながら進むと、彼女は上履きの儘で校舎を出て行った。

 靴を履き変える余裕なんて無かった。

 あたしも校内履きのサンダルの儘で彼女の後を追った。

 まるで、最初から目的地を決めてあったかのように歩いている彼女。


…こっちの方って………


 覚えのある建物へと向かう彼女。

 そこへ向かうと確信したあたしの脚は漸く止まった。
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