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淫と乱
第5章 ドロドロ
 
 私の足音だけが暗い廊下に響く。

 照明なんて点いていない暗闇。


…これは…
…ヘタなお化け屋敷より…


 窓の外から聞こえる、風切り音や葉音にビクッとする。

 昼間は賑やかな学校の深夜の顔。

 更には頭に浮かんでくる体育館の光景。

 あの不気味な物体の存在。

「…うぅ………」

 今になって込み上げてくる恐怖感。

 見当をつけている職員室まではたいした距離では無かった筈なのに、なかなか辿り着かない。

 分かっている。

 原因は分かっていた。

 初めてスケートリンクの上にスケート靴で立って、いざ滑ろうとした時の姿。

 滑って転ぶ恐怖に、なかなか一歩が踏み出せなかったあの恰好。

 腰が引けて、延々と手摺りを磨いていた記憶が蘇っていた。

 今もまさにそれ。

 余りの暗闇と物音に、私の両手は廊下に付いた窓の縁を掴み、恐る恐る脚を運んでいた。


…こんな事なら……


 今更ながらに悔やまれる。

 何で、あの年中バカ笑い教師を置いてきてしまったんだろう。

 あのムキムキ教師を相手にしていれば、多少なりとも怖さは軽減出来ていた筈だった。


…でも…確か…もう少しでぇ…


 私の感覚が職員室に近付いていると教えてくれる。

 へっぴり腰で何とか進んでいた。

 暗闇の中で、辛うじて見慣れた職員室の扉を認識した時だった。

 音も無く、突然現れた黒い影。

「……………」

 私は悲鳴をあげる事さえ出来なかった。


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