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淫と乱
第10章 砂浜
 
「何か…忘れられてる気がするんですけど……」

 数歩進んだところで、背後からボソッと一声。

 ハッと振り返れば、眩しい太陽の光が似合いそうにない、まさに軟弱という言葉が当て嵌まる男子の姿。

 いや、忘れて…ないよ、薄井影人【ウスイ カゲト】くん。

 忘れる訳……ない。

「気にしない気にしない、ガハハッ」

 ひょろっとした薄井くんの肩をバシバシと叩く角刈り筋肉質の男。

 海に来てるのに、やはり何故だか赤いジャージ姿の音楽教師。

 赤ジャージ先生も力加減を知らないのか、顔を顰めて痛そうにしている薄井くん。

 この二人も一緒に海へと来ていた。

「…やっぱり忘れてたよね?」

「あ、あは…は………」

 薄井くんのジト目が痛い。

 笑ってごまかしても、薄井くんの表情は柔らかくならない。

「ほらほら、良いから早くしないとみんな待ってるぞっ、ガハハッ」

 薄井くんをバシバシと叩いていた赤ジャージ先生は、砂浜の上に置いてあった荷物を担いで歩きだした。

「あ、は、はい」

 薄井くんも歩きだした事で、真希も後を着いていった。

 ひょろっとした男子と並んで歩く、荷物を担いだ赤ジャージ先生の後ろ姿。

 アンズ先生の荷物よりも、格段に多い荷物を軽々と持っている。

 角刈りといい、筋肉質の体といい、力もあるのに何で音楽教師なのか分からない。

 絶対、道を誤ってる気がする赤ジャージ先生。

「ほら、霧島っ。早く来い、ガハハッ」

 またいつの間にか脚を止めて考え込んでいた。

 赤ジャージ先生の声にハッとして、熱い砂浜を小走りに後を追った。
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