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淫と乱
第10章 砂浜
 
 高鳴る鼓動と同時に、ある匂いが鼻を突く。


…また…この匂い………


 一度ならず、何度も嗅いだ事のある匂い。

 最近はご無沙汰だけど、普通の夫婦なら嗅いだ事はある匂い。

 体と髪、全身から漂ってきてるような感じ。

 体臭や髪の匂いに混じって、青臭い精液の匂いがする。


…最近…シてない筈なのにぃ…
…それにぃ……こんな普段から匂うなんて………


 意識すればする程、何だか匂いが強くなる感じ。

 陽射しの熱さとは違う熱さを感じる。

 その匂いに脳が蕩けるような違和感。

「しかし、霧島先生も良く理事長から別荘なんて……」

「そうそう。あたしも誘われた時はびっくりしたわよ」

「まさか、私ばかりか薄井の子どもまで誘われるとは思いませんでしたけど。ガハハッ」

「それは、二人とも荷物も………」

 戻ってきた赤井先生とアンズ先生の会話も耳に届かない。

 離さなきゃいけないのに、離れない視線。

 意識したくないのに、意識させられる匂い。

 強くなっていく体の熱さと、脳の甘い痺れ。

「ちょ、ちょっと。恭子姉…どうしたの?」

 ボーッと立った儘の私にアンズ先生は戸惑った様子で、二人だけの時にしか呼ばない呼び方をした。
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