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淫と乱
第1章 プロローグ
 
 恐る恐る顔を上げてみる。

「あ………」

 返事をした人物と目線が合う。

 明るい茶色のウェーブが掛かった、左の目元にホクロのある女性。

 軽くルージュを引いただけの口元を緩めながらも、細いフレームの眼鏡の奥にある瞳は笑っていなかった。

「え、えっと………」

 目線が合うのが辛い。

 目を泳がせて何とか言葉を吐き出しても、目の前に居る人物が纏う雰囲気は一向に緩まない。

「霧島さぁん?」

 思いの外低い声が吐き出され、肩がビクッと跳ね上がる。

「伊達眼鏡……。学校にあったんだね」

「話、逸らさないのぉ」

 語尾が伸びる緩い口調ながらも、纏っている雰囲気は一段と張り詰めていた。

 不意に視線を向ければ、胸の前で腕を組んでいた為に、撓わな胸が持ち上っていた。

 ジャケットの下に着たブラウスの胸元から、谷間が見えそうになっている。

「そ、そのスーツ……似合ってるよ恭子…お母さん」

 おっぱいが見えそうだとは言えなかった。

 無難に服装を褒めてみた。

「あらあらぁ。学校では先生でしょ? 真希ちゃん」

 辛うじて、何とか話を逸らす事に成功したように思っていた。

「後で生徒指導室ね、霧島さん」

 お説教コース直行便に乗れた事で再び机に俯せようとしても、それは阻止された。
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