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宵闇
第9章 溶ける
ごくりと唾を飲み込んで、言った。
「……私ね、先輩と別れたことがつらいんじゃないんだ」
それは、もう。
仕方のないことだったってわかってる。
掠れてどうしても小さくなってしまう声のまま、続けた。
「それより、先輩から言われたことが忘れられなくて……ずっと、苦しくて」
そこまでは口にしたものの、先を言うことに少しの躊躇いが生まれる。
話してしまいたいのに、本当に話してしまっていいのかと、ずっと隠し続けていたことを言葉にすることにどうしても心が揺れる。
葉月くんに知られたくない──そういう思いも、やっぱりある。
俯いて黙りこんでしまった私に、葉月くんが優しい口調で言った。
「……何て、言われたの?」
隠さないで全部言って? と続けられる。
……全部。
きっと私はそうやって促してほしかった、とそんなずるい気持ちに気づきながらも、ここまで言ったらもう話すしかないんだと都合よく自分に言い聞かせ……そっと、口を開いた。
「さっきも言ったけど……私の初めて……先輩だったのね」
下を向いたままで。
「……そのときすごく痛かったんだけど、でも続けるうちにだんだん気持ちよくなるから、って言われて……」
うん、と葉月くんはいつもと変わらない心地いいトーンでの相づちを打ってくれた。
だから私も、こういうことを口にする恥ずかしさをもちろん感じてはいたものの、そのまま話し続けた。