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宵闇
第9章 溶ける
「でも、何回しても全然気持ちよくなんかなれなくて……いつも、早く終わって、ってそんなことばっかり考えてた」
深く息を吐くと、葉月くんが私の手をぎゅっと握ってくれた。
そしてその手の力強さに促されるように、私はとうとう、それを。
「……別れるとき、先輩に言われたの」
たまらず、声が震える。
「琴音の気持ちやっぱりわからない、とか、し……してるときもいつも冷めてるから男からしたらそういうのキツい……とか」
「琴音ちゃん────」
葉月くんが口にした私の名前。
途端にもう、冷静ではいられなくなった。
「……っ、なんで……!?」
ぶわっ、と涙が溢れる。
ぽたりと落ちた雫は、何粒も、続く。
私の膝を濡らしていく。
「全部──全部私のせいなの? 私がいけなかったの……!?
でも、何回も好きだって言ったのに、信じてくれなかったのは先輩の方でっ」
感情が、堰を切ったように溢れ出す。
「結局あんな無理矢理……!
こわいって……痛いって言ったのに……!
私、何回も待ってって先輩に言ったのにやめてくれなくてっ」
葉月くんの、私の手を握る力が強くなる。
「なのに先輩……俺のこと好きじゃないからするのがいやで抵抗したんだろ、って……!
私はただ、そういう気持ちになれるまで待ってほしかっただけなのに……!」
涙が、止まらない。
なぜ?
どうして?
心の中で繰り返し続けていた。
誰も答えてくれはしないそんな問いかけを、自分の中でだけ、ひたすら。
「……いつも……いつも私は自分がただの処理の道具みたいに感じてた。
でも、拒めなくて────」
求められるがままに差し出し続けた身体。
心とそれが、ばらばらになっていくような気さえしていた。