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宵闇
第9章 溶ける


ふっ、と……その香りが急に強くなる。
同時に、身体がそっと何かに包まれるような感覚。


「葉月、くん……」


私は抱きしめられていた。
心地いい、その拘束感。


「うん。全部言っちゃっていいよ?」


頭を優しく撫でられながら、そう言われて。


「う……」


また、涙がこみ上げる。


「葉月くん……葉月くん────!」


そのまま、その身体にしがみついた。
私を抱きしめる腕の力が強くなったのがわかる。
いつの間にか私は、葉月くんの腕の中でわあっと声をあげて泣いていた。
泣きながら、ああそうだった、と気づく。
これは葉月くんがいつも纏っている香りだった。
そう……私の大好きな。


それに包まれている安心感からなのか、いつのまにかすべてを口にしていた。


先輩にとって、彼女って何?
好きなときにできる、都合のいい存在?
先輩にとってあれは、私を自分のものにするという満足感を得るためだけの行為?

……じゃあ私の気持ちは?
どうでもいいの?
関係ないの?

本当に私のことが好きだったというなら、どうして私の心を無視できるの?
どうしてそんなことができるの?

好かれてる自信なんて、私の方こそ持てなかった。
あんな状態で、持てるわけがなかった────。


泣きじゃくりながらの言葉を、葉月くんは全部受け止めてくれた。
黙ったまま、時折背中を優しくぽんぽんとしてくれる手。
ちゃんと聞いているよ、とそれは私にそう教えてくれているよう────。



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