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宵闇
第9章 溶ける


……やがて離された唇。


何が起こったのかまだよくわからないまま葉月くんを見つめ続けた私に


「僕と、試してみる?」


そう、静かに、告げる。


……え、どういうこと────?


頭の中は完全にパニックになっていた。
考えたわけじゃないのに座ったまま後ろに後ずさった身体。
でも、すぐ壁にぶつかる。
これ以上どこにも──逃げられない。


葉月くんが、私を囲むように両手に壁をつく。
反射的に、私はその胸元を両手で押して下を向いた。
早鐘を打っている心臓。
目の前の葉月くんを見られない。


「琴音ちゃんが不安に思ってることの全部は無理かもしれないけど、少しはなくせるかもしれない。
だから僕と試してみよう?」


すぐ近くから聞こえる声。
その息遣いさえ感じる。


「……い、言ってる意味わかんないんだけどっ」


混乱からか、葉月くんが何を言ってるのか理解できなかった。
ううん──本当はたぶんわかってはいる。
あの口づけと、その言葉が意味すること。
けれど、まさか、という思いが強くて。
この展開がとても信じられなくて。


「わからない?」


なのに葉月くんはそんなふうに聞いてくる。
頷くことも首を振ることもできずに黙ったままの私に


「じゃあはっきり言葉にしようか」


おとされた、低いその声────。


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