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宵闇
第9章 溶ける
──どうしよう。
その言葉ばかりが頭の中をぐるぐると回っていた。
目の前に葉月くんがいて、私に向かって話されている言葉なのはわかるのに……その内容は本当に私に向けてのものなのかとわからなくなるぐらいの混乱。
「でも葉月くん、彼女は────」
そして咄嗟に口から出たのは、そんな言葉で。
「いないよ。前に言ったでしょ?」
「でも」
「いいからもう黙って」
私の戸惑いを強引に終わらせ、葉月くんが両手で私の頬を挟んだ。
思わずびくっと身体を強ばらせた私に、その整った顔を傾けながら近づけてきて、そしてまた重ねられた唇。
すぐ離され、何度も何度も角度を変えながら、ゆっくり、そっと触れるだけのそれは、今までされたことのないとてもとても優しい口づけ。
「は、葉月くんっ……だめ……」
流されてしまいそうな自分を感じながらも口にした抵抗の言葉すら
「……いや?」
甘い色を帯びた声に、まるで溶かされてしまいそうな感覚を覚えた。
「……琴音ちゃんは今、セックスに対してマイナスイメージしかないよね?
そのイメージを払拭できるとしたら、それは僕だけじゃないかなって思うんだけど」
優しい言葉。
どこまでも心地よく、頭の中を掻き回してくる。
「だって琴音ちゃん……僕には心を開いてくれてるでしょ?
……自惚れてるかな?」
咄嗟に大きく首を振っていた。
だってそれは本当のことだから。
私にとって葉月くんは特別な人だから。