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宵闇
第9章 溶ける


すべてを終えたらしい葉月くんが、横たわったままの私に覆い被さるように顔を寄せ、そっと頭を撫でてくれた。
相変わらず穏やかな手。優しい指先。
こんなふうにしてもらったあとでも、それは何も変わらない。


「……琴音ちゃん」


呟くように私の名を呼ぶ。
ん……? と少し首を傾けながら答えた私に、続けて言った。


「琴音ちゃんはつらい経験をしたかもしれないけど、身体を愛されるって……本当は今みたいにちゃんと気持ちよくなれるものなんだよ?」
 

優しい、笑み。


「だから──したくないとか……きらいだとか痛いとか、そんな印象だけ持たないで?」


すっ……と、私の頬に伸ばされた長いきれいな指。
張り付いていたらしい髪が、避けられる。


「琴音ちゃんはちゃんと感じてた。
……すごく濡れてたの、わかるよね?」


こくん、と頷く。


私、確かに感じてた。
気持ちよかった。
葉月くんにさわられて、すごく気持ちよかった────。


「ここから先も同じ。
相手に丁寧にしてもらえば、ちゃんと気持ちよくなれるはずだから……大丈夫だから」


ここからって……ああ、そっか。
セックスは、このあとがあるんだ。
これだけじゃなかった。


まるで夢の中にいるかのような精神状態のまま、ぼんやりとそのことを考える。


そして、『相手に』という言葉に……そうだったと。
葉月くんが、どんな気持ちで私にこんなことをしてくれたのかを、あらためて思い出す。


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