この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
宵闇
第11章 惑い
「ん~。困ったなあ。
琴音ちゃんがこんな状態なら、一緒に映画は難しいか……」
けれど、うーん、と考え込むようなその仕草は妙に大袈裟で、何だかおかしくなってきてしまう。
「もう……! そういうこと言うかなあっ!?」
思わず、葉月くんの腕を押しながら抗議すると
「ははっ! うそうそ」
楽しそうに笑いながら私の頭をまた撫でてきた葉月くんに苦笑いしながら、その服の裾を引いて、もうっ、と抗議する。
そんなやりとりの中、私の中にあったさっきまでの少し気まずいような感覚は、あっという間に消えていた。
こういうふうにさりげなく気遣ってくれるところはさすが葉月くんだよなあ、と……いつもの私たちに戻れたことにすっかり安心した私は
「あ、そうだ!」
と、それを思い出して、鞄の中を探す。
「はいっ」
取り出したものを葉月くんに手渡した。
「え? 何?」
「えっと……この前のお礼?
葉月くん、私が作るクッキー好きだって言ってくれてるでしょ?」
「わざわざ作ってくれたの?」
頷く私に、葉月くんは嬉しそうに笑った。
「嬉しいなあ……ありがとね、琴音ちゃん!」
私に──私だけに向けられた、葉月くんの笑顔。
見ているだけで自分まで嬉しくなる。
勝手に顔が笑ってしまうのを抑え、
「うん! じゃあ早く映画行こ!」
わざと葉月くんを促すように袖を軽く引っ張って歩き出した。