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宵闇
第11章 惑い
映画館は、駅に隣接した施設内にある。
すぐに着き、チケットを買って、シアターの開場時間までふたりでロビーをうろうろした。
上映予定のチラシがたくさん置かれている場所で、あれも面白そうとか、今度はこれも見てみたいね、なんて話をしながら。
──そのとき、背後から声がした。
「……あれ? 桜井くんじゃない?」
振り向くと、若い女の人がふたりこっちを見ていた。
「やっぱり桜井くんじゃん!」
そして笑顔でそう言いながら近づいてくるのは少し派手目なかんじの人。
「ああ……どうしたの? 小野さんたちも映画観に?」
葉月くんが、その人に普通に話しかけた。
「あったりまえじゃん! ここ映画館でしょ?」
何言ってるの、と楽しそうに笑い出すその人。
少し間を置いて近寄ってきたもうひとりの女の人が私を見て軽く頭を下げてくれたので、私も慌てて同じようにする。
どうやら二人は私たちが今から観るつもりの作品をちょうど観終わってシアターから出てきたところらしかった。
「同じの観るの?
けっこう面白かったよ~」
「そうなんだ。
……楽しみだね、琴音ちゃん」
急にふられ、え!? と葉月くんを見る。
視線が合い、ね? と微笑まれ、黙ったまま私は頷いた。
ん、とその笑みが深くなる。