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宵闇
第11章 惑い
だったら、好きになっていい人にだけ、好きって思えたらいいのに。
好きになっちゃだめな人にはそんな気持ちにならないようにしてくれればいいのに──そんな、誰に対して願えばいいのかわからないようなどうしようもないことまで考えてしまう自分に呆れながら、黙々と歩いていた。
──「琴音ちゃん?」
そんなときに突然名前を呼ばれ、わっ! と声を上げるぐらい思いっきりびっくりしてしまった。
「ははっ! 驚きすぎでしょ……!」
笑いながらそう言ったのは、私の歩いている方向に立っている人────。
「……葉月くん……」
「何? 僕んちに来てくれたの?」
そう聞きながら、こっちに近づいてくる。
「あ……うん。
でもね、留守だったから……帰ろうかなって」
「鍵渡してあるよね?
中に入って待っててよかったのに」
「あ……そうだったね、つい……」
忘れてた、と呟く私の目の前まで来た葉月くんは、微笑みながら私の頭を撫でてくる。
どきり、と跳ねた心臓の音に、葉月くんに聞こえてしまってないかと一瞬焦ってしまった。
「歩いてコンビニに行ってたんだ」
けれどすぐに、すっ、と自然に離された手。
視線を下げると、葉月くんの右手の小さな買い物袋が少し揺れている。
「戻ろう?」
腕を軽く掴まれて向きを変えさせられた私は、葉月くんの家に再び向かうことになった。
黙って後をついていく私を気遣うように、先を歩く葉月くんが何度も振り返る。
目が合うたびに、笑ってくれる。
そのたびに、好きだなあ、って……やっぱり思ってしまう自分を自制するように、途中からは視線を下へと向けたまま、歩いていた。