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宵闇
第11章 惑い


葉月くんの家に着いた私は、どうぞ、と促されるままに室内へと足を踏み入れた。

すぐにコーヒーを煎れるためのお湯を沸かし始めた葉月くん。

いつもの場所に座ると──突然、記憶が生々しく私を襲った。
だってここは……葉月くんにキスされた場所で。
……ちら、と思わず流してしまった視線の先の、シングルベッド。
勝手に溢れてくる記憶に、熱くなる頬を自覚した。
たまらなくなり、俯く。


「はい」


やがて、目の前に差し出されたカップ。


「あ……ありがと」


受けとる際に葉月くんとばっちり目が合って反射的に逸らしてしまい、そんな自分に焦る。

もう、と困ったような声が聞こえた。


「……頼むから普通にしてよ、琴音ちゃん」


声をかけられ、そっと視線を上げる。
その声色から感じたように、葉月くんはやっぱり苦笑いをしていた。


「あ……うん」


わかってる。
わかってるけど──と、つい下を向いてしまう。

だってこの部屋は……自意識過剰なのはわかってるけど、なんだかやっぱり生々しい。
外で会うのとはまたちょっと違う。
何というか……そう、いろいろと恥ずかしくなる。


「まあ……しょうがないよね。
でも琴音ちゃんがそんなだと、僕まで恥ずかしくなるでしょ?」


ん? と下から覗きこむようにされ──その、何の含みもなさそうな真っ直ぐな目に、また胸がきゅうっとする。
葉月くんはそう……いつも私をこんなふうにしっかりと見てくるんだ。
どうしようもなく優しいまなざしで。


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