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宵闇
第11章 惑い


「ん。琴音ちゃんは大丈夫だから」


ね? と、諭すような優しい口調も、いつもの葉月くん。


「もしその彼ともだめになったら、その時はちゃんとなぐさめてあげるから」


ははっ、と笑うその表情も。


「だから変に心配ばっかりしない事!」


私の頭を撫でるその手つきも。


「……もう! だめになること前提なわけ!?」


苦笑しながらの抗議に、ごめんごめん……! と笑って返してくるその姿も──いつも通りの葉月くんだった。


……やっぱり私は『妹』としか見られてない────。


突きつけられた現実。

妹の新しい恋を応援する兄の姿──今の葉月くんからはそれしか感じない。

葉月くんの態度に少しの動揺すら感じ取れなかったことに絶望してしまった自分に、自分でも驚く。


……ほんとは期待してた?
心のどこかで、葉月くんももしかしたら私を──なんて、思ってた?
私の発言に動揺して、止めてくれることを期待してたの?


──本当に、私ってばかだ。


私は、葉月くんにとってただの『妹』にしかすぎないのに。
そんなことわかってたはずだったのに。

妹として愛される──それ以上のことを望んだら、きっと距離を置かれるに違いない。
私は葉月くんの存在を失うことが何よりも怖い。
だったらもう、こんな邪な自分の心は殺して、これからも『兄を慕う妹』を演じ続けるしかない。


それは、いつまで?
いつまでなの?
私が葉月くんを諦めない限り……いつまでも、なの?

……いっそ、ただの妹に戻れれば。
純粋に葉月くんを慕っていたあの頃の気持ちに戻れたなら────。


心の中にいろんな想いを抱えたまま、それでも私は葉月くんと他愛もない会話を交わしながら笑いあっていた。

もう諦めるしかないのだと、自分に言い聞かせながら────。





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