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宵闇
第11章 惑い
「……何で?」
当然、聞かれるだろうと思っていた理由。
「桜井、顔あげて」
促され、少しだけそれに従った。
でも、彼を見ることができない。
「俺が駄目な理由──言って?」
いつもと変わらない、村上くんの声。
私を責めるでもなく、普通に疑問に思ったことを聞いているかのような、そんな静かなトーンで続けられる言葉。
視線を逸らしたまま、答えた。
「……好きな人……いるから」
訪れた、少しの沈黙。
重苦しい空気。
再び俯き、目を閉じて心の中で何度も謝った。
……ごめんね。
ごめんなさい。
ずっと想ってくれてたのに。
結局こんな答えしか出せなくて、本当にごめんなさい────。
「……それでもいいって言っても?」
不意に聞こえてきた言葉に、目を開く。
「え……?」
思わず顔を上げて、村上くんを見た。
村上くんも、私を見ていた。
「桜井の好きな人……葉月先輩、だよな?」
そして告げられたその言葉────。
私はまるで声を失ってしまったかのように、何も言えないままただ村上くんを見つめていた。
ふっ、と逸らされた視線。
やっぱりな、と彼が小さな声で呟く。
……なんで?
なんで村上くんが知ってるの。
私でさえついこの前気づいた想いなのに──どうして、わかったの。