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宵闇
第11章 惑い
今日もいつものように、大学の帰りに村上くんと待ち合わせて一緒に帰った。
他愛のないいつも通りの会話。
別れ際のキスも、いつも通り。
──唇が離れたとき、村上くんは言った。
「土曜なんだけどさ……俺んち、来ない?」
「……あさって?」
「ん」
私から視線を逸らすように下を向いた彼の言葉の意味──部屋に遊びに行くならそういうことも考えるべきなんだって前に先輩に言われたことがあるから、すぐにわかった。
優しい彼の想いに応えられるなら、それが一番いいって──それがきっと一番幸せなんだって、ずっとそう言い聞かせながら、彼と一緒の日々を過ごしてきた。
これが、もう一歩彼へと踏み出すきっかけになるかもしれない────。
「……うん」
行く、と答えた私に、村上くんは顔を上げてほっとしたように表情を緩ませた。
それはとても嬉しそうな、笑み。
「ん。……じゃ、あとで連絡する」
手を振り、そう言って立ち去る彼を、姿が見えなくなるまで私はそのままそこで見送った。
さっきから吹いていた風がまた少し強くなる。
乱れる髪を手で押さえながら、なんだか今日の風はやけに冷たく感じるな、と思った。
……もうすぐ冬が来るのかもしれない、と。