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宵闇
第11章 惑い


「……っ!」


葉月くん……。


思い出す。
琴音ちゃん、と甘く私の名前を囁く彼の声を。
私の胸を、可愛いと愛してくれた彼の唇を。


……葉月くん────……。


閉じた目の奥。
頭の中に浮かぶ、その人の姿。


私に今、口づけているのは村上くんだ。
私の身体に触れているのも、間違いなく彼。
その唇も、指先も、葉月くんのじゃないのに。


……なのに、どうして?


目を閉じて浮かぶのは葉月くんのことだけだなんて。

葉月くんの唇。
葉月くんの指先。

葉月くんの、声だけだなんて────。


「……好きだ」


いつの間に耳元に唇を寄せてきていたのか、村上くんが不意に囁いた。

びくり、と震えた身体。
思わず首をすくめるようにして引いてしまったのは、突然の刺激に反応してしまったからなのか、それとも──拒絶からなのか、自分でもわからなかった。
わからないままに、さらにぎゅっと目を閉じる。


──葉月くん……。


本当は葉月くんにもう一度、こんなふうに愛されたい。
できることならこんなふうに、好きだって私に言ってほしい。


叶わぬ願いが、心の中でいくつも生まれる。


……無理。
やっぱり無理だよ────……!


わかってしまった。
葉月くんじゃない人と身体を重ねようとしてる今だから、気づけてしまった。

私は、さわられたから葉月くんを好きになったんじゃない。
あれはただのきっかけにすぎなかった。

村上くんにふれられているのに、頭の中は葉月くんのことばかり。
誰も葉月くんの代わりになんてなれない。
私が葉月くん以上に好きになれる人なんて、きっといない。

それに──気づいてしまった。


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