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宵闇
第11章 惑い


肩から、離された手。


「……んなことしてねーで、もうちゃんと言えばいーじゃん」


なのに村上くんの口調は呆れたようなものではなく、やっぱり普通で。


「そうやって慎重になんのも、まあ……わかんなくもねーけど」


その気遣いは、変わらず優しくて──たまらず、じわりと目に感情がこみあげてくる。


「……っ」


意識したらもっと気持ちが溢れそうで、そこから気を逸らすように首を振って言った。


「……葉月くんと私は普通の関係と違うもん。告白して、だめだったらさよなら……なんてそんなことできないんだよ?
だって一生兄妹なんだから……だめでもずっと、その気まずい状態でこれからも会ったり話したりしなきゃいけないんだよ?」

「桜井……」

「少なくとも今のまま……葉月くんの妹としてのままでいれば、葉月くんは変わらず優しくしてくれる。
よそよそしくされたりしなくて済む。
私……葉月くんとのそういう関係なくしたくない────」

「でもおまえはそれで満足なわけ?」


私の思いを遮るようにきっぱりと口にした村上くんの言葉が胸に突き刺さる。


「妹なんかで我慢できんの?
これから先、例えば先輩に彼女とかできても? 妹として祝福すんの?
……ってか、できんの?」


頭の中に甦った光景。
葉月くんのお友達と……葉月くんを好きだという人を目にしたときの感情が。
その人が葉月くんに触れたときの──あの感情が蘇る。

どう表したらいいのかわからない、ものすごく不快な気持ち。
一気に沸き上がった負の感情に、気持ちが無理矢理全部持っていかれた────。


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