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宵闇
第11章 惑い
……それでも、ひとしきり泣いたことで、少しずつ気持ちは落ち着いていった。
それに伴い涙もゆっくりと引き始める。
村上くんは黙って、私が泣きやむのをずっと待っててくれた。
私のそばから離れずに。
時折、背中に触れてくれた手を覚えてる。
それはとても優しく、あたたかかった。
「……っ……めんね、っ……村上く……」
しゃくりあげながら発した言葉に、何言ってんのかわかんねーよ、と笑いを含んだ口調で答えてくれる。
「気にすんなよ。ずっとひとりでそうやって泣いてきたんだろ。
……たまには人の前で泣くのもいーんじゃね?」
そして私の頭をくしゃっと撫でた。
雑な仕草なのに、やっぱり優しい手。
「それにおまえだって俺に付き合ってくれたじゃん」
「……え?」
私、何したっけ……?
わからなくて、顔を上げて村上くんを見つめた。
「なに……?」
「ん……恋人ごっこにさ」
「ごっこだなんて────」
否定しようとした私を見ながら、ははっと笑って──それから少し真面目な顔をして、続けた。
「……桜井はさ、いろいろ考えすぎなんだって。
確かにおまえと先輩はちょっと面倒な関係かもだけどさ。でも別に……問題ってわけでもねーんだし。
……もうさ、だめならだめで先輩離れするいい機会とでも思えばいいんだって」
「村上くん……」
「おまえ、先輩にべったりだったもんな。
だから今は先輩がいなくなったらどうしたらいいかわかんないって……そう思うのかもだけど、実際離れたら別にそんな大変なことでもないかもよ?
……だからあんまり思いつめんなって。な?」
想いを拒んだ私にそんなことを言ってくれる村上くんの優しさ。
染みる。心に、深く。
……本当に。