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宵闇
第12章 その意味
……琴音。
彼女を思うと、心が荒れ狂いそうになる。
僕の妹である彼女は今、僕じゃない男の『彼女』なのだ。
その、どうしようもなく苦しい現実。
あれから、溜め息が増えた。
琴音が僕の家に来た、あの日から。
村上という男に告白され、彼と付き合うつもりだと僕に話した、あの時から。
……衝撃。
そう、それはそう言っていいと思う。
とうとうきたんだ、という──できれば永遠にこないでくれたらと願っていた出来事。
あまりにも、早すぎた。
琴音が、前の男からされていたこと。
それにより、彼女の心が深く傷ついたこと。
もう誰とも付き合いたくないとまで思ってしまっていた彼女に──それならそれでもいいと、いやむしろそうであってほしいと一瞬でも考えてしまった自分。
自分が恋愛対象になれないのなら、せめて、と。
……そう思いながらも、琴音の苦しむ姿を見ていられなかったこともやっぱり本当で。
だから、あんなふうに彼女を──僕は。
頑なに拒んでいた、新たな恋愛。
そのことがきっかけで彼女が前へと踏み出せるようになったというなら、それは喜ぶべきことなのに。
『その人と付き合おうかどうか迷ってるの』
そう伝えてきた琴音の背中を、君がそう思うなら──と押したのは僕なのに。
『琴音ちゃんは大丈夫だから』
そんなふうにある意味突き放すような言い方で彼のもとへと送り出したのは他でもない──この僕なのに。
「……だってそれ以外何が言える?」
呟いた、自分への問い掛け。
琴音を五年間想い続けていたというその男。
僕がいなかったあいだもずっと、友達としてそばで彼女を支え続けてきたという。
琴音の信頼も厚い、きっとこれ以上ない相手だ。
ぽっと出の男ならいくらでも反対のしようがあったけれど、そうでないなら僕が言えることは────。