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宵闇
第12章 その意味
独特の緊張感。
自分を落ち着かせようとカップを手にする。
やがて、下を向いている彼の口から深い溜め息がこぼれ、そのまま続けられた言葉────。
「……桜井とはもうつきあってないです」
──え?
思わず彼を見た。
……つきあって、ない?
カップを置きながら
「それ──どういうこと?」
まだうつむいたままの彼にそう言葉を投げ掛ける。
琴音から話を聞いてからまだ1か月ぐらいか?
……2か月は経っていないはずだ。
付き合うことに前向きだった彼女。
彼となら大丈夫だと思う──そう言っていた。
なのにいったい何が起きた?
……ふたりの間に何があったんだ?
「そもそもつきあってたなんて言っていいのか────……」
再び口を開いた彼。
一言一句聞き漏らすまいとその表情に意識を集中させた。
「俺、最初……断られたんですよ」
「──え?」
断った?
僕には付き合うつもりだと言っていたのに──どういうことだ?
頭の中が混乱する。
何も返せずに次の言葉を待っていると、ようやく彼はゆっくりと顔を上げた。
僕の視線を受け止め、見返してくる。
「他に好きな人がいるって理由で」
「────!?」
思ってもいなかった言葉に動揺が走った。
琴音に好きな人がいるって?
そんな……そんなこと僕は知らない。聞いてない。
「それを俺が無理言って付き合ってもらったんです。
好きな人がいても……それでもいいから、って」
彼の言葉は確かに頭の中を巡っている。
けれどまるで理解することを拒否しているのかのように、言葉の表面だけをただなぞる……そんな状態に陥っていた。