この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
宵闇
第12章 その意味
「……先輩」
そんなとき、かけられた言葉。
はっと我に返った。
……落ち着け、と自分に言い聞かせ、目を閉じゆっくりと息を吐く。
混乱したままの頭の中、とにかく琴音に会いに行かなければ──それだけは思っていた。
どんな話でも、僕が聞いてあげて、そうして────。
「先輩」
再度呼ばれ、ゆっくりと目を開けた。
「先輩にも言えないような相手って──いったい誰だと思います?」
「誰って────」
そんなことわかるわけがない。
彼以外の男とはあまり付き合いがなかったようだったけれど……それも僕が知らなかっただけだというのか。
「……君は知ってるの?」
僕の問いに口元を歪めながら、まあ……と曖昧ともとれる答えは
「好きな人がいるって聞いたとき、俺はすぐにわかりましたよ」
続けた言葉で、はっきりと肯定される。
「先輩は?」
「え?」
「先輩はわからないんですか?」
……その言い方。
僕を見るその顔。
「ほんとに?」
挑戦的な目。
僕は彼にとって好きな相手の兄なはず。
なのになぜこんなふうに敵対する相手を見るような目で、彼は僕を────。
そして、はあ……と、どこか呆れたような溜め息をついた彼は言った。
「じゃあ俺が何で先輩をこうやって呼び出したんだと思います?」
「……え?」
「付き合った、別れた──そんな報告のためだけとでも?」
その、苦笑い────。