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宵闇
第12章 その意味
しばらくの沈黙。
やがて彼は静かに目を開け、呟いた。
「……は。マジ終わったし……」
溜め息をつきながら、僕を見る。
「じゃあ早く桜井にそれ言ってやってくださいよ。
……これ以上もう用ないんで、俺……帰ります」
そう言って立った席。
「ありがとう」
伝票を持とうとする手を制してそう声をかけると、彼は軽く頭を下げた。
そのまま歩き出し、僕の横を通り過ぎようとして不意に立ち止まる。
「……あ、そうだ先輩」
ん? と向けた視線。
彼は僕とは目を合わせず、言葉だけで答えてきた。
「桜井の前の男のこと、知ってますか」
……琴音の前の。
彼女の心と身体を傷つけた、男。
「ああ……琴音から話は聞いてる。
そいつが、何?」
彼は、僕に視線を向け、ゆっくりと目を合わせてきた。
「……なんか、先輩に似てたんですよね」
「え?」
思ってもいなかった言葉に思わず聞き返すと
「何て言うか……雰囲気とか? まあ、なんとなくですけど」
彼はそう言って、さらに続けた。
「だから桜井が先輩のことを好きだと知ったとき──正直、勝てる気はしませんでした。
結局あいつの心の中には……ずっと前から先輩がいたんだなって」
逸らされた目。
「……やっぱ悔しいですけどね……!」
はは、と苦笑しながらのその言葉を最後に、今度こそ彼は店を出ていった。